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Dear Someone. -社会心理学概論-

社会心理学に関連する記事を載せていきます。

社会心理学の歴史

Man is by nature a social animal; an individual who is unsocial naturally and not accidentally is either beneath our notice or more than human. Society is something that precedes the individual. Anyone who either cannot lead the common life or is so self-sufficient as not to need to, and therefore does not partake of society, is either a beast or a god. (訳:人間は本来社会的動物である。必然的に生まれつき社会に属していない個人は、我々に認識され得ないか、或いは人間以上の存在である。社会は個人に先立って存在している。互いに共通の生き方を教え合わない人、或いは自分自身で満足しているために何も必要としない人がいて、それゆえに社会に参加しないのならば、それは獣か神である。) アリストテレス『政治学』 

社会心理学誕生まで

 アリストテレスは、人間を「社会的動物」(或いは、ポリス的動物でしょうか…)と表現した人で有名です。つまり、人間はいつでも「社会」を形成し、「社会」から離れて生きることはできない、という今では当たり前に思われていることを言っているわけです。ですがそれまではプラトンが唱えていた、俗世からの脱却を「美」とした哲学が主流でしたから、そう考えるとこの言葉には重みがあるように思われます。

 集団心理というのは、社会心理学が誕生する前から度々話題に上ることがあったようです。弁証法で有名なヘーゲル(1770-1831)は、集団心理を「社会にとって避けられないくらい関連のある物((1」と言っていたり、心理学の父と呼ばれるヴント(1832-1920)は、人間の思考は言語を通して、文化や共同体によって影響を受け得るとし、晩年は「民族心理学」の研究に打ち込みます。

 一方で集団や群衆の研究を行っていたG.ル・ボン(1841‐1931)は、群衆を単なる個人の集合ではなく、「群衆心」というものが存在することを主張し、社会と個人を結ぶきっかけになりました。同じ時期のJ.G.タルド(1843-1904)は、社会を理解するには、個々の心理的側面を知る必要があると主張し、彼の学説は「心理学主義的社会学」と呼ばれ、社会心理学が誕生するきっかけとなりました。((2。

 そして、1908年に心理学者のM.マクドゥーガル(1871-1942)と社会学者のE.A.ロスがそれぞれ、『社会心理学』の教科書を出版します。マクドゥーガルは人間の行動を本能で説明することで、それを社会心理学に生かそうと試みますが、彼の説は本能の定義があいまいだったということもあり、今ではあまり言及されていません。しかし、1908年が「社会心理学」の始まりであるという見方が今日でも多くなされています

社会学と心理学の統合

 社会心理学はその後、社会学と心理学が並立して発展していくことになります。社会学社会心理学の中心人物であったG.H.ミード(1863-1931)は、「ごっこ遊び」やゲームなどの中で特定の他者の役割や「一般化された他者」の役割を取得する過程を分析して、社会との関係から自己を規定する方法を示しました。彼の研究は、当時心理学がとっていた実験室での手法はとらなかったため、「社会学社会心理学」と呼ばれていました。

 一方で「行動主義(心理学は心や意識というよくわからないものを対象にするのではなく、行動を扱うべきだとする主張)」の祖と言われるワトソン(1878-1958)は、心理学を理論的な立場にするうえで重要な役割を演じました。彼の研究はのちに、「新行動主義」として、スキナーによって引き継がれていきます(スキナーについては後ほど解説します)。

 社会心理学はそうやって社会学と心理学が並立するなか、「環境」と「個人」という単位でお互いに影響を及ぼしながら発展していきました。そこで登場するのが、K.レヴィン(1890-1947)です。レヴィンが活躍した当時は、ヴントの要素主義的心理学(心はいろんな要素で成り立っているという立場)に対抗するようにゲシュタルト心理学(心は全体として意味をなしており要素に還元できないという立場)が主導権を握っていました。彼は、そうした学派の一人でしたが、当時心理学が扱っていた知覚領域から広げ、性格の研究や生活における緊張や要求の問題に対しても科学的に扱いました。こうして「日常生活の問題」を社会心理学で扱うことでその学問の可能性を大きく広げ、のちのたくさんの社会心理学者に大きな影響を与えました(レヴィンについては後ほど詳しく解説します)。

 最後に、社会心理学者で欠かせないのはオルポート兄弟になります。兄のH.オルポート(1890-1978)は、これまで「集団心」という、実体のないものに対して心を持っているとするような考え方を「集団錯誤((3」と呼び批判し、現代の社会心理学でも重要な考え方となっています。

 それに対して弟のW.H.オルポート(1897-1967)(はじめにで触れた社会心理学の定義は彼の言葉です)は、より日常生活についての分析を試み、性格や自己の問題第二次世界大戦後には流言(デマ)や偏見の研究も行っていました。彼の研究内容は未だに社会心理学において不動の地位を占めています。

戦後の社会心理学

 戦後の社会心理学は、(特に日本では)全体主義ファシズム)の反省から、「集団心理」研究対象にすることが多かったため、社会学に関心が偏っていました。しかし1970年代に入ると戦争に対する関心は薄れ、心理学的な要素である実験科学化が進みます。今日では社会心理学は心理学の一分野として受け入れられることが多いのです

 ところで1990年代までの社会心理学では、アメリカなどの「西洋文化」中心で行われていました。しかし、1990年代になると文化間で個人や集団の持つ「心理学的側面」が違うことが議論され始めました((4。また、人間の心の本質を「適応的視点」から見つめなおし、社会的動物という側面からの理解が必要であることを指摘している研究者もいます((5。この動きは、人間の性質が個人の側面からだけではなく、社会や文化というマクロな文脈にも焦点を当てて考えるべきだという流れからきていることは間違いありません

現代の社会心理学

 現代ではさらに、神経科学といった自然科学の分野にも社会心理学が関わっています。例えば、「利他的行動」を促す神経細胞が発見されたり、特定の「態度変容」を促す場合に分泌されるホルモンが研究されることによって、人間の心の本質に対する科学的な分析はさらに進むことになるでしょう。一方で文化心理学といった社会学的な心理学の研究も大きな前進を見せています。このように、「マイクロな視点」と「マクロな視点」が統合的に研究されることによって、社会心理学は更に進歩していくことが期待されます。

-------------------脚注

1. Social Psychology | Simply Psychology

2.『社会心理学キーワード』山岸俊男 有斐閣 2001

3. 例えば「社会が君を必要としている」と言われたときに、あなたは勿論「社会って誰だよ」と思うでしょう。このように「社会」や「集団」という実体のないものを一つの「機能」として扱う考え方を「機能主義」と呼びます。つまり、社会という「機能」に心が存在して、その心が君を必要としているのだというような記述の仕方になります。しかし、その見方は社会をまるで実体のあるシステムであると過大評価していることになります(例えば、学校でいじめが起きたとして、その原因を生徒間に求めるのではなく、学校に求めるのは少し論理的ではありませんよね)。この間違いをオルポートは「集団錯誤」と名付けています。

4. 北山忍(1998)がこれを「文化的自己観」と呼び、西洋文化の人間が持つ傾向を「相互独立的自己観」、東洋文化の人間が持つ傾向を「相互協調的自己観」と名付けています。例えば、西洋人が当たり前に持っていた「根本的な帰属のエラー(後で詳しく解説します)」などが日本人では表れないことを指摘しました。これによって、人間にとって普遍の性質であると考えられてきたあらゆる心理学的傾向が、文化心理学の観点から見直され始めました。

5. 亀田達也・村田光二(2010)は、「社会規範」がどうして存在するのか、どのように形成していくのか、そして社会の構成員である個人はそれによってどのように社会に「適応」していくのかという問いを中心に社会心理学を「適応的人間」という側面から統合的に考察しています。