社会心理学とは
the study of the manner in which the personality, attitudes, motivations, and behavior of the individual influence and are influenced by social groups.(訳: 個人の人格や態度、動機付け、振るまいが社会的な集団によって影響する、或いは影響される枠組みを研究する学問) -merriam-websterより引用-
「はじめに 」でも書いたように、社会心理学とは、社会の中にいる人間の心を科学的に研究する学問です。ですが、あまりに学術的で、主軸となる明確な理論体系(これをメタ理論と言います。例えば数学なら1+1ならば2であるといったような公理など…)がありません。従って、社会心理学が「どういう学問であるか」を一言で表すのはとても難しいように思われます。
実際僕もいまだに迷うのは、図書館などで社会心理学を勉強するときに「社会科学コーナー」に行けばいいのか、「人文学コーナー」にいけばいいのかという初歩的なことです。実際のところ、社会心理学は「社会学」に属するのか、「心理学」に属するのかが長く揺れてきました((参考 社会心理学の歴史。
今回は社会心理学がどういった内容で研究が進められているかに触れながら解説していきたいと思います。社会心理学の定義にもあるように、それは「集団」と「個人」という観点から(似たような用語でマイクロ=マクロ関係と言います)大きく分けて次の4つに分けられます。
- 自己と他者との関係
- 個人の集合体としての集団
- 集団が個人へ与える影響
- 集団と集団の関係
1の「自己と他者との関係」は主に「社会的認知」という研究領域で扱われています。つまり、「自分とは何か」ということや、「私はどうやって相手と付き合っていけばいいのか」ということを科学的に追求していく分野になります。具体的には、自分を知る心理過程と自己表現の仕方を知ろうとする「自己過程」、他者に対してどういう振る舞いをするかを考える「態度変容」、他人をどう知ろうとするかを研究する「対人認知」などがあります。
2の「個人の集合体としての集団」は、「マイクロ=マクロ関係」を説明するうえで最も重要な領域となります。例えば、「三人寄れば文殊の知恵は本当か」といった問いや、「人間は集団をどのように形成していくのか」といった内容にアプローチする方法です。具体的には、個人の集まりという認識だけでは説明できないような現象を考える「集団意思決定」、集団内で共有される価値観や判断の枠組みを研究する「集団規範」などがあります。
3の「集団が個人へ与える影響」は古くから社会心理学の関心の的になっていて、古典的研究が今も多く影響しています。「自分はこの社会にいてどう影響しているのか」を科学的実証を通して発見していきます。具体的には、集団が個人の思考や判断基準を変えてしまう「同調効果」や、個人が集団の中でどのように自己を規定しているのかを考える「社会的アイデンティティ理論」などがあります。
最後に4の「集団と集団の関係」では、有名な実験は「シェリフの泥棒洞窟実験」でしょう(後ほど解説します)。集団と集団の接触には、個人同士の接触では説明できないような不思議な現象が起こります。具体的には、内集団を高く評価し、外集団を差別する傾向である「内集団ひいき」、集団同士が出会うことによって個人の欲求とは違った結果が生まれてしまう「集団間葛藤」などがあります。
※個々のキーワードの解説は順次行っていきます。
この他にも、更に「集団と文化」の関係を研究する「文化心理学」だったり、「マルチメディアと社会の変容」を研究したりしている社会心理学者もいらっしゃったりして、上の4つの区別も必ずしも正しいとは限りません。しかし、このように「マイクロ=マクロ関係」の視点で社会心理学を統合的に俯瞰すれば、自ずと全貌が明らかになってくるはずです(僕もできてはいませんが…)。
社会心理学を統合的な視点から分かりやすく解説している著書に『複雑さに挑む社会心理学 適応エージェントとしての人間』(亀田達也・村田光二 2010 有斐閣アルマ)があります。この本では、先の「マイクロ=マクロ関係」と、進化の領域から見る「適応的視点」の二つのキーワードを軸に、社会心理学が解説されています。とても分かりやすく、興味深い話題がたくさんありますのでお勧めです。
複雑さに挑む社会心理学 改訂版--適応エージェントとしての人間 (有斐閣アルマ)
- 作者: 亀田達也;,村田光二
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2010/10/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 2人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (2件) を見る