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Dear Someone. -社会心理学概論-

社会心理学に関連する記事を載せていきます。

援助行動: 結局、人の「優しさ」ってなんだろう?

社会心理学

Previous: 社会的交換理論

 

男「ねえ、好きな人のタイプってある?」

女「そんなこと言われても…。うーん、強いて言うなら優しい人かな」

男「優しい人、ねえ。優しい人って本当にいるのかな」

女「わかんない。いるかどうか分からないから、理想なんじゃない?」

男「真の優しさが分からなくても、どういった行動が人にとってプラスになるか。それについて考えてみようか」

前回のおさらい

 前回は、「社会的交換理論」の大枠をお話ししました。簡単に言えば、社会の仕組みを、金銭や物品のような「経済的交換」とは別の、愛情とか幸せといったものを交換する「社会的交換」によって理論的に説明しようとするものでした。今回は、長い目で見れば巡り巡って自分に返ってくるだろうという考えから人に協力する関係を築く「互恵的利他主義」の考え方も加えて、社会心理学の関心の一つである「援助行動」について具体的な話をしていきたいと思います。援助行動とは、簡単に言えば自分を犠牲にしてでも相手を助けたいと思う気持ちですが、社会心理学で扱う援助行動は多種多様です。その大枠を概観していければと思います。

思春期の子は優しくない?

 E.スタウブが「年齢を重ねるにことによって、援助行動はどのように起こるか」を調べるために子供たちに興味深い実験を行いました。彼は子供を部屋の中にいれ、ほかの子供の泣き声が隣室から聞こえたときに示す行動を分析し、援助行動の発生率を調べました。

 興味深いことに、通常は年齢を重ねるごとに、思考や認知が成熟し、誰かのために動こうとする心理が育つように思われるが、結果は全くの逆でした。幼稚園から小学二年生までは、援助行動をする子供たちの割合が増えてきますが、二年生をピークに、小学校六年生まで割合はガクンと落ちるのです。更に興味深いことに、一人でいるときよりも二人でいるときの方が、その変化は大きくなります。

 以上のような結果から、多感な思春期になると、「傍観者効果」でも問題となった「他人からの評価」を気にするようになり、行動が慎重になったことが分かったのです。「他人からの評価」を気にし始めるのは思春期特有の反応であることが分かっているため、「援助行動」が「他人からの評価」に左右されやすいだろうという結論を導くことができます。

援助行動の分類

 では、「援助行動」はどうやって発達していくのでしょうか。援助行動を調べるにはまず、その概念が何かという説明をしなければなりません。しかし、社会には様々な援助行動があふれています。お年寄りに椅子を譲ったり、学校の先生が授業時間外に質問を受け付けたり、親の介護、友達のレポートを手伝うなど援助行動には無限の多様性があります。しかも、その多様な行動には、さらに多様な動機があります。

 今回は、「援助行動」を、本人の内的要因から、他者の幸福のために行為することと定義します。つまり、「お年寄りに椅子を譲るのは、自分がそうしたいからしたのだ」ということで、「他人に命令されたからした」という行動は援助行動に含めないとします。高木修は援助行動を次の7つに分類しています((1

  1. 寄付・奉仕(お金を寄付したり、臓器を提供すること)
  2. 分与・貸与(自分の貴重な持ち物を貸し与えること)
  3. 緊急事態における救助(緊急に救助を必要としている人を助けること)
  4. 労力を必要とする援助(荷物を持ってあげたり、料理を作ってあげたりすること)
  5. 迷子や遺失者に対する援助(はぐれた子供を世話したり、落とし物を届けること)
  6. 社会的弱者に対する援助(身体の不自由な人や子供、お年寄りを助けること)
  7. 小さな親切(出費をほとんど気にかけることなくできる親切のこと)

 このように「援助行動」を分類することによって、援助行動の概念の理解が深まったと思います。この分類によって、援助動機を調べることで、援助行動の共通点を見つけ出し、重要な要素を取りだすことが可能になりました。

援助行動を起こす動機について

 援助行動を行う動機について、さまざまな研究者が類型に分類しました((2。以下、それに共通する分類方法を大きく四つに分けました。

  1. 援助必要性の知覚(相手が困っていて援助を必要としているか気づくこと)
  2. 責任感と規範(自分が援助をする責任があると感じるかどうかを、社会的・個人的規範に依存していること)
  3. コストと報酬(援助に伴うコストとそれに見合う報酬があるかどうか)
  4. 援助技能や実行可能性の自己評価(自分がその援助をできるかどうか)

 これらの動機が互いに関係して、行動を促進したり抑制したりして援助行動が起こるとしました。これらを大枠から観察すれば、援助行動は「個人的な要因」と「社会的な要因」が多重に絡み合って成り立っているように思われます。従って援助行動を研究することは同時に、個人と社会の関係を研究する社会心理学の分野にぴったり当てはまるということです。

共感性から見る援助行動

 「援助行動」を「共感性」という概念から見た場合、また違った様相が表れてきます。共感性とは、他者の心を推測し、気持ちを理解することです。社会において、この共感性を育てることは、相手との言語的、或いは非言語的コミュニケーションを交わすうえで大きく重要なスキルとなってきます。

 共感性によって援助行動が行われると仮定した場合、考えられる動機は二つあります。一つは、苦しい状態に陥っている人を見たときに生じる不快感を低減するために行う「自分本位の動機」付けです。例えば、電車で立ったままのおじいさんが悲痛そうな顔をしていた時、その顔から苦痛を共感的理解することによって生じる自分の痛みを軽減しようと席を譲る、とした場合です。

 もう一つは、苦しい状態に陥っている人にただ単純に幸せになったほしいと思う向社会的な動機です((3。共感的理解から、人に幸せになってもらおうとボランティア活動などに従事しするような「利他的動機」のことを言います。前者からくる行動は、一時的な援助行動であることがある場合が多く、後者に裏付けられた行動は、継続的な援助行動になることが実験でわかっています。ボランティア活動も、「苦しんでいる姿を見たくないから助ける」というよりも、「一緒に幸せになりたいから助ける」といった人の方が長く続きそうですよね((4

 このように、人への共感性による動機付けは、「社会的交換」とはまた違った援助行動の形を与えてくれます。また、この共感性は、自己中心的な思考から脱し、他者視点を考えられるようになって育つ性質であることが分かっています。つまり、前半のスタウブの実験が示したように一度は潜伏するものの、多感な思春期を経て他者視点を獲得することで、援助行動は促進されていくと解釈することができます。

 

 今回は「援助行動」について深く掘り下げてきましたが、多くの研究者によって類型化されているとはいえ、行動や動機の多様化であることによる定義のあいまいさは未だに残ったままです。まとめると、「援助行動」は、幼いころに育てられるべき行動規範で、それは思春期の時にいったん潜伏します。それがどのように発達するかを調べるにあたって、その行動が7つの分類によって分けられ、その分類に対応する動機を調べることによって4つの類型を示すことができました。また、共感性という性質から援助行動を見ると、「自己本位の動機付け」と「利他的動機付け」の二つに分けられ、後者のような利他性は、他者視点の獲得によって得られると言うことができました。

 「援助行動」は何回も繰り返している通り、それ自体はあいまいな定義しか持っていません。しかし、その概念に関係する多くの研究結果と考え方は、個人と社会の関係を探求する社会心理学には重要な知見を与えてくれます。今回の様な、自己と他者を「協力/裏切り」の関係とみなす「社会的ジレンマ」的なカテゴリーはこれで終了となります。次回からは、社会心理学の古典的な研究に触れていけたらいいなと思います。良ければ次回も是非読んでください。

 

女「結局優しさってどこからくるのか全然わからなかったね」

男「そうなんだ。なのに、人は優しさを求める。頭の中では『優しさとは何か』が実は何かわかっているんだ。しかし、それはあまりに複雑で、言葉にしたとたんに消えてなくなってしまう。人の援助行動を一つとってみても、個人や社会、その文化や瞬間の状況で、その行動の意義が大きく変わってくる。だからこそ、『自分にだけ優しいその人』は自分にとって貴重なんだ。多くの人が『優しい人』を求めるのは、その貴重さに価値を置いているのかもしれない。逆に言ってみれば、先ほど君が言った『分からないから理想になる』というのは案外正しいのかもしれないよ」

女「それでも、私は自分にとっての優しさを探求していきたい。そうやって探求してその先に、何かがあるのかもしれない。それと同時に、自分に対する理解も深まるかもしれない。そして、私自身も優しくなれるかもしれない」

男「そういう希望を持って、今後も社会心理学を研究できればいいよね。時として意図することと全く逆の実験結果が得られようとも、社会心理学が与えてくれる知見は大いに役立つことを期待しているよ」

 

 

--------------------------脚注

1. 高木修著『人を助ける心ー援助行動の社会心理学サイエンス社、1998年

2. Reykowski, J. Cooperation and helping behavior. 1982年 Academic Press.

3. 「向社会的行動」とは、「援助行動」をはじめとした、社会に価値を置く行動のことです。ボランティアや人助けなどを含みます。 

4. しかし、今のボランティア活動では、「本当にボランティアがしたい」として地域活動を行う若者は10%もいないという研究データがあります(すいません、どこだったか忘れてしまいました。後で書きます)。その内情は「地域交流を持ちたい」や「自分のスキルアップ」といった自己本位の動機付けが多いのが実情です。